2008-01-01から1年間の記事一覧

小室事件にほのみえるもの

深沢七郎『楢山節考』を読み終える。郷愁にあふれる牧歌的な文体と裏腹に、内容は「姥捨て山」に捨てられる、いや、正確には捨てられに行く女とその息子の物語である。 淡々と読み進め、淡々と読み終えて、獏たる感慨を抱いたが、なんともとらえどころのない…

三十而立

30歳になった。 お祝いしてもらったりするも、30の自覚もないままにするりとこの路に入った感があって、この調子だと40の路もするりと入るのではなかろうか。 しかしこの年になるといい加減世の中のあれやこれやが見えてきて大したことでは動じなくな…

PETER FINGER

密やかに光明を放っているものが好きだ。 広く大衆の手垢にまみれないことによって通俗化を免れているもの。 大衆の厳しい視線を逃れながらもけして安易な自己模倣や自己満足に堕していないもの。 音楽でいうなら、文句なくピーターフィンガーの奏でるものだ…

しあわせのたんぽ

今日はひさしぶりに痛飲し、久しぶりにその勢いで日記を書きなぐるので、筆は大言壮語、大方狂人の殴り書きである。 虎ノ門には雨がそぼ降り、おれは昨日も傘はさしていないし、今日も傘はさしていない。雨もしたたるほど良い男かっていうと自信はない。 今…

last train

ようやく会社のゴッタゴッタの繁忙期も片がつきそうで、素直にうれしい。ボチボチ日記も再開。それにしてもめっきり冷え込み始めたものだ。 この半年ときたら、まるで病気のハムスターみたいに回転車をカタカタ必死になって失踪している感じだったもの。 し…

少年は荒野を目指す

吉野朔実の同タイトルは、今から20年以上も前の作品だけれど、傑作『ぼくだけが知っている』に通底する味わいがありますな。 吉野さんの描く世界は流麗で美しい。とりわけ彼女の描く星空と草原はどこか優しくなつかしい気持ちにさせられる。夢と現(うつつ…

The time you spent for your rose

久しぶりの日記は疲れているので、ですます調でかかせていただきますです。 今日は某所で新作の絵本を発表してきました。といってもアマチュアですが。 今回も色々考えさせられたのだけれど、やはり表現する、ということは非常に難しいものです。 正確に言え…

ボローニャ絵本展にて

今日は板橋区立美術館にボローニャ国際絵本原画展に行ってきた。なかなかの盛況ぶり。 緻密に描かれたものから、洗練された落書きのような作品まで多種多様な魂の放出が見られて結構だった。 気に入ったのはジャラルディーヌ・アリビューの「一番近くにある…

日記をしばらく開けていた。日記を書き連ねる必然性に欠いていたし、日々あまりにもせわしないあれこれをインプットしては吐き出していたのであえて日記という形をとらなくても事足りたともいえる。この間、スマトラ沖(バンダアチェ)にまた行ってきたり、…

シンプルな生活

仕事でスマトラ沖に行ってきた。津波災害から3年が立ち、復興の後の様子をほんの断片的にではあるが確認することができた。仕事とはいえ、上空から、船上からの美しい眺めをぼんやりと見ているだけで、心が洗われていくのがわかる。透きとおる波間を泳ぐカ…

起こるであろうことが起こる、とはいえ

この二月ばかりは、悲喜こもごものすったもんだで日記どころではなかった。日記が客観視をする行為なのであれば、自己を客観視などしたくなかったのだろう。振り返るには時間の手助けがいることが世の中には確実にある。それが、思いがけなかったり、理不尽…

偉大なる無頓着

電車の中吊りを見やると、川上未映子のポーズをきめたドアップが飛び込む。本当に、やめてほしいものだ。帯に現代の樋口一葉とある。そして例によって山田詠美やら池澤夏樹の綿菓子みたいな無内容な言辞が添えられていて、脱力を強くさせてくれる。彼らはか…

田舎が育ててくれた愛情

関東に久しぶりに雪が降った。 積雪こそしないけれど、朝に車窓からしんしんと降り積もる雪のにおう情景がどこか親密で美しい感じがした。そして雪が降っていたほうが肌に感じる寒さも軽減されるのはどういった理由からなのだろうか。 今日は出産後の友達と…

芥川賞受賞に思う

川上未映子が芥川賞受賞、という報に、嬉しさではなく寂しさがこみ上げてくるのはなぜなのだろう。(精神性において)思い焦がれた人間が遠くへ行ってしまうことの寂しさか、あるいは一つの類稀な才能が権威による承認によって俗化していく寂しさか。いずれ…

自分を見失っていたい

「いつも自分を見失っていたい」と言ったのは辻仁成だったか。気障でナルシズム漂う零句ではあるけれど、自分を見失うっていうのは、しかしたいそうつらいことである。恋煩い・・・まっとうな自己分析ができなくなり、行動が情動的になり、盲目的になるのだ…

君は慈愛を

仕事始めである。いつもの群青色の空気にも、心なしのさわやかな風。 年始の挨拶を取り交わし、ボチボチと仕事に取り掛かる。世界に重い緞帳が垂れこめているように感じられたのはいつ頃からだろうか、ふと感慨が襲う。 埃の積もったレコードプレーヤーに滲…

静謐な始まり

クリスマスから年末年始にかけて、しとしとと過ぎた。みずから望んで静謐さを求めたのだから、結構なことである。クリスマスは同僚たるMさんとしめやかに飲み、年末には彼女の勧めに従って遠藤周作『深い河』を読む。遠藤周作の本をまともに読んだのは初め…