芥川賞受賞に思う

川上未映子芥川賞受賞、という報に、嬉しさではなく寂しさがこみ上げてくるのはなぜなのだろう。(精神性において)思い焦がれた人間が遠くへ行ってしまうことの寂しさか、あるいは一つの類稀な才能が権威による承認によって俗化していく寂しさか。いずれにしても独りよがりな寂しさではある。そして、小説にしろ何にしろ芸術に触れるという行為は、突き詰めれば独りよがりな行為である。ルーヴィンシュタインの指からこもれ出る音の美しさよ。

そして、おれは川上未映子の書くものをしばらく読まなくなるのだろう。村上春樹の処女作で、死んだ人間の書いたものは許せるようなことを言っていたと思うけれど、おれもなんだかそのような心境なのだ。逆にいうと、世で認められないままに、池田晶子の言を借りれば「100年後の読者に書かれた」本を手に取りたい気分だし、そうやって人知れず輝きを放っている本を愛したいと思うのを如何ともしがたく。

とはいえ、とはいえ。川上未映子さん、芥川賞受賞おめでとう。いつだったか、彼女と話した時に彼女の真摯さに打たれたことを思い出す。「おもしろいやん、て思ってもらえるような作品をこれからも書いていきたいと思います。」彼女はそう言った。そして書いた。それでいい。また、どこかで、邂逅せんことを祈ります。