草の根の社会学者

昨日は合同誕生会ということで、いつもの仲のよいメンバーで飲んだ。最近は歳を食ったせいなのか、といっても三十路前だけど、飲み会という席にひどく億劫になってきている。しかし、参加したら参加したで、自分の頭にひめたあれやこれらが理路よく整理されることが多いので、重い腰を上げて飲み会に出るというのはいい機会なのだ。そして今日も飲み会。名目は合コンだけれど。
昨日は生命をお腹に宿した友達が来ていて、その女の子の旦那は我が同期で、二人が出会ったのもおれが居合わせた合コンなので、なんだか感慨深いと思うところがなくもない。もう男なのか女なのか、病院で聞けばわかるのに、あえて聞いていないという。そして名前の本を3冊も買って、あれこれと画数を考えているあたりが微笑ましいというか。
終電を見送って、色々な思いもしないような話を言ったり聞かされたりもしたのだけれど、疲れた身体をタクシーにほおりこんで、いつもどおり仲間の家に泊まった。たまたま乗ったタクシーのおっちゃんは福島県出身で、東京で運転暦18年ということだった。これまで色々な芸能人を乗せたことを得意げに語っていた。松田優作は態度が横柄だとか、菅原文太はヤクザにしか見えないだとか、加賀まりこは真夏なのにクーラー切って走らされたとか、ぼんやりとした頭で聞いていた。18年の間に車内で流血沙汰が3回もあったという。殺人事件などしか表沙汰にならないが、後ろから刃物を突きつけられたりと大変なようだ。「タクシードライバーになんかなるもんじゃないよぉ」とおっちゃんは福島弁が抜けきらないものやわらかな口調で語っていた。「最近は男がみんな白状でねえ、女の子を一人だけタクシーにほおりこんで、後はよろしくっていうのがすごく多いんだよぉ。女の子は寝てるし、身体にさわるわけにもいかないしで、結局警察に預けるしかないんだよねえ」深更の繁華街に漂う気だるく背徳的な雰囲気が嫌いなのも、飲み会に腰が重くなっている一因なのだろうな。
「車は人の運命をのせて走ってる」おっちゃんの手に運命をあずけながら、今日も偶然の誰かが、偶然の場所で、偶然の会話をしているんだろう。