免許センターにて

自動車免許の更新に行く。普通免許というのがなくなって、条件つき中型免許になったとか、後部座席もシートベルトの着用義務をうたう法案が可決されたとか、業務上過失の刑期が5年→7年になったとか、色々に変わっていた。そしてしっかり違反者であるおれは、2時間の講義を受けさせられる。交通事故の啓蒙ドラマつき。講義をしてくれた教官は、いつも思うのだが、そんじょそこいらの教師なんかの倍くらい、やる気に溢れている。大学の老教授、なんであんなに揃いも揃ってやる気がないのか。免許場の老教官、なんで揃いも揃ってやる気があるんだ。教官曰く、「車は乗っている人の運命ものせて走っていることを忘れないでください」。来る日も来る日も、くすんだ色の教室で、快活に、明るく厳しく講義するのであろう老教官。頭が下がります。
帰りに洋服を買う。丸井のトルネード・マートに入ると、馴れ馴れしい感じの年齢不詳のギャル男くずれが声をかけてくる。そしてべらぼうに持ち上げられる。トレンチコートは背が低いと着せられてる感があるんだけど、お客さんみたいに身長ある人はすごく似合うよ云々かんぬん、とあの手この手のほめ言葉の嵐。しかしいかんせん扱ってるものは全部かっこいいのだけれど、人が安っぽいと買ってあげたい気にならないものだよな。結局、丸井の斜向かいのコムサショップで、気のいい若々しい店員から千鳥柄のトレンチコートを買う。
10年ぶりくらいに『罪と罰』を読み返していて、とても面白い。読み始めてすぐに襞に染み入るような感じがあるのは、作者の苦境が露骨に反映されているからだろうか。口述筆記によって1ヶ月弱で書き上げられたという。なるほど、母親の長大な手紙などは、現代小説にありがちな小賢しい意匠抜きの、美しく胸を敲つ語り口に仕上げられている。
本棚にしまっておくのは、心の扉をこじあけるような名著だけでいい。原書があればなおいい。それと気の利いたエッセイが何冊かあれば足りる。といいつつも、会社が神保町にあるのをいいことに本は毎日増えていく。財布はいかんともしがたく減っていく。しかるに借金は多作の母とかいうらしいから、って借金はしないけど、名著名文を無心に味わうという時間が、とても幸せに思う今日この頃。