マサチューセッツ通り2520番地

阿川尚之マサチューセッツ通り2520番地』を読む。慶応大学を辞めて初の民間人の公使として赴任した、在アメリカ日本国大使館での活動記録である。民間人だけあって、お役所内のしがらみに絡め取られている印象が少なく、大使館での業務がかなりの割合で実感に即したものになっていて、読みやすかった。
これまで俺も、いくつかの大使館や総領事館で外務省本官の人たちと仕事をしてきてもわかるのだが、外交官などというと華やかで、傲慢なイメージがあるけれど、今までそんな人間に目にかかったことはほとんどないし、彼らは諸外国での日本の窓口として、実直に振舞っているなという印象があった。そして、とくに経済協力班の方々などは、若い人でも任国の事情に精通していて、頭の回転もべらぼうに速く、語学も堪能であるので、わが身を振り返り、身が引き締まる思いになる。そしてタフな人が多かった。紛争・テロが多発している国や伝染病が蔓延している国等々、様々な任国の環境的な制約の中で、たえず緊張を弛緩を繰り返しながら長期にわたって新たな問題に取り組んでいくことが、自ずとタフさを培うことにつながっているんだろう。
しかし、タフだけれど何とやりがいのある職務かと思う。自分の想像を超えた具体的な状況のダイナミズムにさらされる中で、人の世界は開けていくのであるからして、外交官というのはその意味では大変な魅力ある仕事である。そしてそれに負けていられるかと、俺も負けてられんよ、と思う。セネカに言われるまでもなく人生は短いわけで、短いのは承知のうえで、明日死ぬかもしれぬのは承知のうえで、常に発火していたいと思うわけで。発火して、一発大きな花火を打ち上げられたら、それはとても、最高に、いいっすね。