A small , Good thing

会社の暑気払いみたいなものがあって、サンドイッチやら菓子やらを並べて、たくさんのビールとワインを隣にそえた。暑気払いとはいえども、若手二人が外に出はってしまう、ちょっとした送別の会。
「上のかた」がいつもの決まりきった、型にはまった、予定調和の、それでいて心がこもっているようには一向に思えない挨拶を終えたのち、ピラピラのプラカップに入ったビールで立飲みで乾杯した。
おれの隣には、期限つきで採用されている庶務の女の子がいて、ビールをついだりしながら少し話をした。
普段も席は隣に座っているのだけれど、とてもおとなしくて、控えめで、いつもなにを考えてるのかよくわからなくて、庶務の仕事は絶対量が少ないから、いつも時間を持て余してるようにしているのだけれど、それがクソ忙しいみんなの反感をかってしまっていたりもして、でもやっぱりおとなしくて控えめだから、自分からはあまり主張することはなくて、自分なども忙しさと面倒くささにかまけて、あまり話をしたりしていなかった。というか、今の部屋自体、世間話を日常的に交換し合うような空気が流れていなくて、流そうもんなら何を油売ってんだみたいな話になりかねなくて、実に窮屈だと思うのだけれど、そんなルーティンをルーティンであることに慣れきって、というか黙殺かつ容認して、馬鹿みたいに雑務にとりかかったりしているのだけれど、その女の子が最近金曜日に1時間だけ休暇を出すのが習慣になっていて、なんだかとても不思議だなあと思っていたのだけれど、興味がわいたのでいい機会だと思って聞いてみた。
「Sさんはいつも金曜日1時間、どこにいっているの?」
Sさんは少しためらいがちに笑みを作り、
「あ・・あれ・・(メンタルヘルスの)カウンセリングに行ってるんです」
と答えた。
絶句した。というより何なのだろう、無力感。何も気づいてあげられなかった。いつだったか係長にも金曜の休暇で何をしているのか聞かれているのを聞いていて、そのときは確かマッサージ的なことを言っていた気がするのだけれど、そんなのもあって、予想外の答えにぶつかって、なんというか、情けなくなってきて、それでも微笑みながら「メンタルが弱いんですよ」という彼女に申し訳ないような気持ちがわいてきて、おれといったら、や、おれもメンタルよわいよ実は、そういう時はお酒がいいよ、おれなんか毎日飲んでるからさ、なんて言ってみたけれど、なんになるのかならないのか。毎週金曜どこに遊びに行っているんだ、と内心思っていた自分がなんだか腹立たしくなって、そう、これってまるでレイモンド・カーヴァーの『A small , Good thing(ささやかだけれど、役にたつこと)』のパン屋みたいな心境なんだ。もう、おれにできることって、彼女のいるところを暖めて、あたたかなコーヒーを沸かして、オーヴンから取り出したロールパンと一緒に差し出すくらいしかしてやれない。それがささやかだけれど、役に立つことを信じて。
来週はSさんを神保町のBIGBOYに連れて行こう。