人生は深ける、酒の入った気持ちの良い宵に

この日は前日の興奮を引きずりつつも仕事に取り掛かるのだが、身が入るのだか、入らないのだか。もう人生で大事なことって、「自分が心から好きなこと、あるいは自分が本当だと思うことを追求していく、あるいは追究していく、そんでもってそのことを通じて他の人の幸せの総和を少しでもかさ上げして、それによって自分の幸せもかさ上げされていく」っていうこと以外にはないとつくづく思うから、さて目下のわが身に引き換えて、反省を促されることしきりなのである。
 尊敬するジャーナリストの日垣隆が「夢は十年持ち続ければ(そしてそれに向かって突き進めば)叶う」と子供に教えていて、それは適当な言い分ではなくて、10年本気でやり続けると、その世界があるとき「分かった」思えるようになるということらしい。あるいは10年を、1万時間と置き換えてもいいのだという。1日に換算して3時間。毎日3時間、あることを一心不乱にやれば、その世界が分かってくる。少なくとも、その「世界」についての素人のウン百倍の知識や経験を持つことになるわけで、それだけのものがあれば、その世界では通用するわけで、あとは己の才気と運で道を切り開いていけばいいわけなのであって。
 こんなことを書くのも、30代という大きな裾野を目前にして、やはり自分も人生を考えるわけであって、そしてこのくらいの歳になると、ようやっと社会ってもののルールなり、価値観なり、振舞い方みたいなものが感覚でわかってきて、これからの人生に色々な直観が舞い降りてくるのと同時に、現在の世界を抜けることの恐怖にも捉えられるのである。振り返れば杞憂にすぎないのかもしれないけれど、この時期に決断をどうするかによって、やはり人生の舵はだいぶ変わってくるのだろうなあというのがあって、そのためには相談するのは己の気持ちだけでいいのだという気になってくる。
 遅くまで仕事をして、モッサンとシゲと酒を飲みに行く。神保町のタイ料理バー、TRIP。いつものところ。モッサンは三十路やや超え、シゲは25くらいか〜若いな。モッサンは人生の大事なことはマンガ『魁!男塾』と『花の慶次』から全て学んだという豪の者である。そしてシゲも『ろくでなしブルース』からだいぶ学んだとのたまわる始末。そんなことを言ったらおれも人生の基本は『スラムダンク』『寄生獣』『花の慶次』『お〜い竜馬』『今日から俺は!』なんかで形成されているので、いやあ本当に軽くて明るくて愉快だね。『寄生獣』は重いか。人生とはおよそはずれた、とりとめのない爆笑談話をしながら、帰るのもつまらなくなってきて月曜からお泊り決定。
そのまま終電でモッサンの家に流れ、コジャレタ部屋で飲みなおす。嗚呼、人生。自由自適の生活を送っているのが伺える。ジャック・ジョンソンの気の聞いたハワイアン・ミュージックが流れ、夜は深けた。