ファイア!

今日は川上未映子の『わたくし率〜』の対談(聞き手・豊崎由美)を聞きに、神保町にある三省堂・自遊時間に行ってきて、会社がそもそも神保町だから、なんだかそこに川上未映子が現れるのが不思議な感じがしたのだけれど、時間よりだいぶ前に到着して、普段なら中々ゆっくりもしていられない神保町の古本屋を散策し、永井均の『翔太と猫のインサイトの夏休み』と『マンガは哲学する』と吉行淳之介『夕暮まで』を買う、3冊で500円――絶句。永井の本は持っているのだけれども、なぜか貧乏根性がはたらいて買ってしまった。
そして、会場に行き、時間が来て対談が始まった。いや、やっぱり目に狂いはなかったというか、こんなに純粋な意味で哲学に取り組んでいる女が、しかも美しい女が、というよりそういう魂を入れた姿形が世の中にこうやって存在するんだなあと思わされた。いや、言い過ぎなのかもしれないし、実際言いすぎなのだけれど、この感覚はひさしぶりと言うか、やはりまた池田晶子になるのだけれど、池田晶子に出会って以来の衝撃だったのだ。
で、その対談で、『わたくし率〜』の物語中に出てくる主人公の日記の日付が何で前後してたりするの?と小粋な橋田寿賀子みたいな感じの豊崎由美氏に聞かれて、「あ、あたし偶数がきらいなんです」とかのたまう。なんでか。割り切てしまう数字がきらいなのだそうである―――爆死。また一方で、「文章を・(なかぐろ)でつないだりする部分もあるよね?これは何か意味が含められてるの」みたいなことを聞かれて、「あ、キーボード叩いてると打ちやすいところに・(なかぐろ)があったから」としれっと答える。そして埴谷雄高の『死霊』を引き合いに出して、「こんな本が世に出て多くの人に読まれてるのだから、私の本なんてまだかわいいもんだって、励みにして書いた」みたいなことも言っていて、特に『死霊』の首猛夫の15ページぶち抜きの独白シーンに触れたところは大いに笑えた。
 対談中しばらくして、60人くらいの客席を指差して、ここにこうやってみんな座っておるけど、実はここには言葉しか流れてなくって、言葉があるから初めてみんなここに在るみたいなことを言って、それを聞いてああ、本当になんというか、そういう真実をさらりとそのアイドルチックな顔からいわれるともうお手上げである。はい、参りました、という感じ。
 『わたくし率〜』は実際には1人の登場人物(主人公)しかでてこない、とあっさり川上は言っていたけれど、もうそれこそ彼女の日記で彼女自身が言ってるように、読み手の読み方は作者の意図を超えて客観性なんてものはないわけで、ただただそこに本当のものがあるかもしれないっていう読書の欲求(=真善美の欲求)が、人に文字を追わせるのであって、そしてそれを少しでも感受させてくれた川上未映子はやっぱりすごいんであって、どうか悪しき自己模倣に向かわずに、世界の頭蓋を叩き割るような作品を生み出し続けてほしいし、その限りにおいておれはずっとファンでい続けるんだろうな、と思った。